― トラウマセラピーの視点から、自分でできるやさしい対処 ―
強い痛みがあるとき、「とにかく早くなんとかしなければ」と焦る気持ちになるのは、自然なことです。でも、トラウマセラピーの視点からすると、痛みは単に体の問題として起きているわけではありません。神経系の状態——とくにその過敏さや興奮——と、非常に深くつながっています。
だとすれば、大切なのは「痛みを力ずくで消すこと」ではなく、まず神経を少し落ち着かせることです。そこから変化が始まります。
この記事では、そのための方法として、痛みの強さに合わせて使い分けられる3段階のセルフケア(リソース法)を紹介します。
1. なぜ「リソース」が痛みに効くのか
「リソース」というのは、簡単に言えば「安心の感覚」のことです。
痛みが強くなっているとき、体の中では何が起きているでしょうか。神経が過敏になり、意識はどんどん痛みに引き寄せられ、不安や緊張がじわじわと高まっていきます。いわば、神経系が「警戒モード」に入っている状態です。
このとき、痛み以外の何か——たとえば「少し安心できるもの」「ほんの少し楽な感覚」——に意識を向けると、神経の興奮が少しだけ落ち着き、それにともなって痛みの感じ方も変わってきます。
その「安心の感覚」こそが、リソース(資源)です。特別なものでなくて構いません。今いる部屋の窓の光でも、体のどこかのわずかな楽さでも。
2. 痛みが強いとき(10段階で7以上の痛み)の対処
― 触れるだけでいい「超軽量スキル」
痛みが非常に強いとき、「何かしなければ」と思うほど、かえって神経は緊張してしまいます。深呼吸しようとしても、リラックスしようとしても、うまくいかないと感じることが多いのは、そのためです。
この段階でいちばん大切なのは、変えようとしないことです。
✔ やり方(1分以内)
①「今、目に入るものを1つだけ、ぼんやり見てみる」
②「体の中で、ここよりほんの少しマシな場所はどこかな」と探してみる
③ 見つかったら、そこに5秒だけ、そっと注意を向ける
✔ ポイント
「楽」である必要はありません。「マシ」で十分です。何も変わらなくても、それで構いません。大事なのはやりすぎないこと。少しで終わりにしておく、くらいの気持ちでいてください。
✔ 何が起きているか
このやり方は、痛みに釘付けになっている注意を「ほんの少しだけずらす」働きをします。それだけで、神経の興奮が微妙に和らぎます。劇的な変化でなくていい。少し、で十分です。
3. 痛みが中くらいのとき(10段階で4〜6の痛み)
― バランスを取り戻すスキル
痛みが少し落ち着いてくると、わずかですが「余裕」が生まれてきます。この段階では、楽な感覚と痛みの感覚を、ゆっくり行き来することができます。
この「行き来」が、神経のバランスを取り戻す鍵になります。
✔ やり方(3〜5分)
① まず周りを見まわして、少し安心できるものを見つける
② 次に体の中で、少しでも楽な場所を探す
③ その感覚を、10〜20秒ほど静かに感じる
④ そこから、痛みの場所へ少しだけ意識を向ける(5秒くらい)
⑤ また楽な場所に戻る
✔ ポイント
行き来はゆっくりで。長くやろうとしなくて大丈夫です。深く感じようと力まなくていいし、「ちゃんとできているか」を確認する必要もありません。
✔ 効果
痛みだけに偏っていた神経の状態が、少しずつ中心に戻ってきます。「痛みしかない」という感覚の中に、小さな余白が生まれてくる、そういう感じです。
4. 痛みが弱いとき(10段階で3以下の痛み)
― 回復を促すスキル
痛みがある程度おさまってきたとき、リソースをしっかり使うことで、回復のプロセスをさらに後押しすることができます。
✔ やり方(5分程度)
① 安心できるもの・場所を、ゆっくり感じる ② 体の中にある楽な感覚を、丁寧に探す ③ その感覚が、少し広がっていくようにイメージする ④ 呼吸をゆったりとさせる ⑤ その心地よさを、急がずにしばらく味わう
✔ さらにおすすめ
好きな音楽をかけることも、安心できる場所を頭の中に思い浮かべることも、このときにはとても役立ちます。体の温かさや、やわらかさに気づくことも、神経を安定させるための立派なリソースです。
✔ ポイント
この段階では、「いい感じ」をただ味わう時間を意識してつくることが大切です。
✔ 効果
神経系が安定してくると、痛みが出にくい状態が少しずつ育ってきます。「治す」というよりも、「回復しやすい土台をつくる」というイメージです。
5. 日常での使い分け
この3つの方法は、そのときの状態に応じて使い分けるものです。
痛みが強いときは「触れるだけ」、中くらいのときは「行き来する」、弱いときは「広げる」。
✔ 大切な考え方
状態を正確に判断しようとしなくてかまいません。「今日はなんとなく重いな」と感じたら、軽い方のやり方を選ぶ。それで十分です。無理に上のレベルを試す必要はありません。
6. よくある誤解
「ちゃんとやらなきゃ」と感じる方がいます。でも、短くて大丈夫です。1分でも、30秒でも。
「効果がないと意味がない」と思う方もいます。でも、悪化しなければ、それはちゃんと成功です。
「集中してやらないといけない」と考える方もいます。でも、ぼんやりしながらでも十分伝わります。丁寧にやろうとすること自体が、神経を緊張させることがあります。
7. 最後に
痛みがあると、どうしても「治すこと」だけに意識が向かいがちです。それは自然な反応です。
ただ、神経系の観点から見ると、痛みの体験を変えていくためには、まず「自分の神経を少し安心させること」が出発点になります。そしてそれは、難しいことでも特別なことでもありません。ほんの数秒、やさしく注意を向けるだけで、変化は始まります。
まとめ
痛みは神経の状態と深く関係しています。だから、無理に変えようとすることよりも、状態に合わせたやり方で「少し楽な感覚」を大切にすることが、回復への近道になります。
🔑 最も大切な一言
👉 「がんばらなくても、少し楽になればそれで十分」
この方法は、道具も準備も必要ありません。あなたのペースで、できると思ったときに、少しだけ試してみてください。

