長年、原因がわからないまま続く痛み。 検査では異常がないのに、体のどこかが訴え続けている。
「気のせいと言われた」「もう治らないのかもしれない」――そんな言葉を、自分に言い聞かせながら過ごしてきた方もいるかもしれません。
そういう経験をされている方に、今日はひとつの視点をお伝えしたいと思います。 痛みには、まだ聴かれていない「理由」があるかもしれない、という話です。
痛みは「体が覚えていること」かもしれない
神経科学者のロバート・スケア博士は、慢性的な痛みと過去のトラウマ体験が、脳・心・体をひとつの連続したシステムとして深く結びついていると述べています。
トラウマというと、心の問題のように聞こえるかもしれません。 でも博士が示しているのは、トラウマは体の中に生理学的な痕跡として残るということです。
その痕跡が、消えない痛みとして現れることがある。
線維筋痛症、筋筋膜性疼痛、偏頭痛、慢性疲労――これらの症状が、トラウマ体験と関係している場合があると博士は指摘しています。
「凍りついた」エネルギーが残り続ける
体は、危機的な状況に直面すると「戦う・逃げる・凍りつく」という反応を起こします。
逃げることも戦うこともできないとき、体は凍りつくことで命を守ろうとします。
問題は、その凍りつきが完全に解けないまま、残ってしまうことがあることです。
放出されなかった大量のエネルギーが、脳と体の中に拘束されたまま眠り続ける。 それが慢性的な緊張や痛みとして、何年もあとになって姿を現すことがあります。
博士自身も、幼少期の怪我がきっかけで体が防御的に収縮したパターンが、長年の首・背中の痛みの根っこにあったと語っています。
体は「あのとき」を繰り返している
過去のつらい体験は、言葉の記憶としてではなく、体の反応パターンとして保存されることがあります。
特定の音、姿勢、においなど――ちょっとしたきっかけで、体が無意識に「あのとき」を再現し、筋肉が緊張し、痛みが走る。
本人には「なぜ今これが?」と感じられても、体にはちゃんとした理由があります。
自律神経が揺れ続けていること
トラウマは、体のホメオスタシス(一定のバランスを保とうとする力)を乱します。
自律神経、ホルモン系、免疫系の調節が慢性的に不安定になると、検査ではわからない痛みが繰り返されたり、なかなか回復しなかったりします。
スケア博士は、成人後の慢性痛を予測する最大の要因のひとつとして、幼少期に積み重なった「小さなトラウマ」の負荷を挙げています。
痛みは「気のせい」ではない
ここで大切なことをお伝えしたいのです。
こうした痛みは、決して「気のせい」でも「心が弱いから」でもありません。
体が発している、非常にリアルなメッセージです。
ただ、その声を「対話」だけで聞き取ることには限界があることも、博士は述べています。なぜなら、体に刻まれた記憶は、言葉の届かない場所に住んでいることが多いからです。
体から回復へ
ソマティック・エクスペリエンシング®(SE™)をはじめとする身体的なアプローチは、この「未完了の反応を、安全なペースで完了させる」ことを助けるために開発されました。
凍りついたエネルギーをそっと解きほぐしていく作業は、時間はかかりますが、難治性の慢性痛にも変化をもたらす可能性があります。
ほとりでできること
セラピーオフィス・ほとりでは、慢性痛とトラウマの関係を理解した上で、体への丁寧なアプローチを大切にしています。
「なぜこんなに痛いのか、ずっとわからなかった」という方が、少しずつ自分の体の声を聴けるようになっていく――そのプロセスに、静かに寄り添いたいと思っています。
痛みとともに長く生きてきた体に、敵対するのではなく、耳を傾けるところから。
ご関心のある方は、お気軽にお問い合わせください。
参考文献・関連書籍
- Robert Scaer, The Trauma Spectrum: Hidden Wounds and Human Resiliency (Norton & Company, 2005)
- ピーター・A・ラヴィーン著、志村秀実訳・花丘ちぐさ監訳『痛みからの解放――トラウマによる慢性痛を癒す内なる力との出会い』(春秋社、2025年)
